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限界旅行で海外撮り鉄してるオタクの備忘録

フッ軽的に福岡と韓国に行った話 3:夜行ムグンファ号1624列車

shinsenriaju8145.hatenablog.jp

↑のつづき。

 

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電車に乗るためにやってきたソウル駅。何か神々しいしピッカーンって感じ。

(すみません、これ以外にコメントが思い付きませんでした)

 

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ちょっと早めに到着したのでホームへ向かってみたら、ムグンファ号が止まってました。数時間後にこのムグンファ号で地獄を体感することになるとはいざ知れず、単純に客車列車にウキウキし「趣深いな~~♡」と思いながらひたすらシャッターを切り続ける自分。この時の自分に半日後の自分の姿を見せてやりたい。

 

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17時ちょうど発のKTXに乗車。KTXの一般室は欧州鉄道でポピュラーな集団離反式の座席で、自分は運悪く後ろ向きの席を指定されてしまいました。

コロナのせいか乗車率は大変低く半分以下しか席が埋まっていません。この後電車は光明、五松、大田…と多くの駅に停車していきますが、そこでもわずかに人を載せるのみ。大田から先では下車客の方が圧倒的に多くなり、釜山到着時には2割程度しか乗客の姿はありませんでした。

 

スマホいじりも景色鑑賞にも飽きて車内のテレビを眺める自分。その目に飛び込んできたのは、翌日訪問予定の仁川・富平で初のコロナ感染者確認との速報でした。

テレビの画面越しに伝わる相当緊迫感のある絵面。改めて相当ヤバい時期に渡韓したことを自覚しました。

これから向かう釜山、道中で通過する大邱、翌日羽を休める予定の仁川全てでコロナに道を阻まれ、のんきに買い物したり写真を撮り歩くことすら叶わない状況にあるとは頭で理解はしていました。それでも、実際に現実を見せられると、やり場のない不安感が私を襲い、なぜキャンセル料を支払って取り消さなかったのか、そもそも来てよかったのか、プライベートがヤバかったといっても他の息抜きがあったんでは、と旅行の意義を全否定するような諸々の考えがぐるんぐるんと彷徨い続けていました。

メンヘラかい。 

 

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19:42、釜山駅へ到着。当時は釜山でのコロナの感染者数が増加傾向にあり、ソウル以上に皆マスクを着用していました。(まだ大邱での爆増が確認される前でした)

 駅構内はそこそこ人がいましたが、駅周辺の歓楽街や飲食店は本当に人がまばら。ソウルと違って観光客すらいませんでした。

 

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釜山駅で見つけたムグンファ号。この国の客車列車にはディーゼルエンジンを積んだ電源車が必ず連結されています。ぶつ切り感のある最後尾というだけで+100000点ぐらいあげたい。

 

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適当に飯食って繁華街を撮り歩いてから、いよいよ今回のメイン・夜行ムグンファ号の始発駅である釜田駅へ。ターミナル感のある釜山駅と違って、薄暗い市場の中に突然駅が現れます。人通りもほぼなく、駅構内にはこれから列車に乗る人とクソほどいちゃついてるカップルしかいません。この後新海雲台駅でもホームでヤバいほどキスしてるカップルを見かけることになるんですが、釜山では駅でいちゃつくのが流行ってるんでしょうか??当時傷心が癒えきってなかった自分には衝撃がデカすぎる光景でした。

乗車するムグンファ号は、22:45発の東海線・中央線経由の清凉里行き第1624列車。近距離電車を除けばこの駅を出る最終列車で、蔚山・慶州への終電、安東・栄州からの物売りを載せる列車、そして堤川・原州からソウルへの始発といった3役を兼ねた「本物の夜行列車」です。

ソウル・清凉里駅までの所要は7時間6分。

 

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あ、アメロコ!!♡♡♡

韓国のディーゼル機関車と言えばこのアメロコ。EMD社製のアメリカンスタイルそのままのクソほどごつい機関車が長年にわたって導入され続け、今でも多くの列車の先頭に立ちありえないほどの轟音を響かせ爆走しています。駅に停車しているだけでも爆音のお陰で存在感は抜群です。

今日の牽引機も例に漏れずアメロコですが、この後この機関車の轟音に不眠の渦に陥れられてしまうことを、まだ私は知る由もありませんでした。

 

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今日の1624列車は旧型のムグンファ用客車4両と最後尾の電源車の計5両。夜行だからと言って特殊な設備があるわけでもなく、他のムグンファ号と何ら変わらない座席車のみで構成されています。

ホームや車内には大荷物を抱えたおじさんや、農産品を背負ってどこかへ物売りに行くであろう老婆、大学時代の私を見ているような金欠っぽい若者、そして終電代わりに使っているであろうリーマンなど、多様な乗客がたくさん。現代の日本からは消えたレジャー性皆無で旅愁たっぷりな夜行列車の風景が、この国にはまだ色濃く残っています。

 

22:45、発車の合図もなくドアが閉まり、定刻に出発。安全上の注意?や自動での放送に続き、車掌による途中駅の案内が始まります。まともに停まる駅なんて調べもしなかったんですが、意外と途中の駅を飛ばしていくようです。備忘のためにこの列車の停車駅を記しておきます。

釜田-新海雲台-機張-佐川-太和江(蔚山)-虎溪-慶州-永川-義城-安東-栄州-豊基-丹陽-堤川-原州-龍門-楊平-清凉里

慶州までは東海南部線(蔚山-慶州は新線移設後廃止予定)、そこから先はすっと中央線を走りますが、原州周辺も付け替えにより今後駅ごと廃止されるそうです。知らない間に主要な区間葬式鉄を無事完了させていたことになります。

 

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太和江で半分以上の乗客を降ろし、いよいよ夜行列車の気だるい雰囲気が充満してきた1624列車。慶州の間は、単線のまま残る東海南部線を走るためカーブも多くスピードが出ませんが、途中途中に昔ながらのホームと小さな駅舎しかないエモい駅が現れ、何の気なしに車窓を眺めているだけでも飽きません。時折現れるこの国特有のネオンサインたっぷりの建物もまた車窓にアクセントを与えてくれます。

 

日付が変わった頃に到着する慶州駅を過ぎてから、いよいよ就寝を試み始めます。しかし思ったよりも状況が悪い。電気は消えないしディーゼル機関車の音がとにかくうるさく、2両目に乗っているはずの自分のところまで普通にエンジン音がそのまま聞こえる。そのうえ客車の乗り心地が硬く揺れで全く寝付けない。極めつけは30分~1時間おきに停車する際に流れる爆音の放送ととんでもない停車の衝撃。あれなら絶対寝過ごさんわな。

どこかの駅で乗ってきた、勝手に2席占領して横になり始めたおじいさんの真似をして、自分も横になろうとしました。ただしそうは問屋が卸さない。おじいさんよりも(喜ばしくも?)明らかに背丈がある自分は、横になると足が通路を占拠してしまうので、空しくもその手は封じられてしまう。そしてリクライニングを限界まで倒しても今度はケツが痛くなり結局起きる。踏んだり蹴ったりです。

一応車掌が巡回しているんですが、KTXの車掌と違って乗客が指定された席に着席しているかまでは確認していません。この適当さがまた韓国っぽくていいと言えばいい。

 

中央線は山越え区間が多く、ループトンネルも数か所あります。トンネルに入るとディーゼルエンジンの音が300%増しぐらいで聞こえてくるのですぐ起きるんですが、同時に一方向へ曲がり続ける感じがよく伝わってくるので、あぁ、今ループ区間を通ってるんだな、と瞬間的に把握できました。

ちなみに2席占領おじさんは色々な駅で「本当ならおじさんの隣を指定された客」に起こされていましたが、頑張って起きようとするおじさんの姿を見て「あー、別の席行くんで」とめちゃくちゃ気を遣われてました←

 

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これが座席。座り心地はいいけれども他の要素が全て台無しにしてくれます。ただ、向かい合わせにできるのでそうして足を伸ばしている乗客もいました。

 

ソウル近郊区間になる龍門からは、ソウル方面への通勤・用務客が大勢乗車してきて、一気に通勤列車の趣を帯びてきます。普通の各駅停車の電車よりも断然早くソウルに到着するので、早朝にソウル方面へ用事がある利用者に重宝されているようです。

 

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5:51、定刻に終点清凉里へ到着。結局完全に寝られたのは栄州-堤川-原州-龍門の各駅の「間」だけでした(駅に停まるときは必ず放送と衝撃で起きる)。栄州と堤川の間に何駅か停まっていたようですが、ここは本当に死んでいたようで全く記憶がありません。多分一番限界だったんだろうな。

乗客を全員降ろすとさっさとドアを閉めて引き上げていく1624列車。7時間6分の長旅の余韻を味わう余裕は一切ありませんでしたが、これこそが飾らない夜行列車の姿なんだと再認識しました。

 

ソウルの大ターミナル駅清凉里とはいえ、こんな早朝にほっぽり出されても開いている暇つぶしができる場所は皆無。仕方がないのでベンチでテレビを見て、寝不足で全く冴えない頭を何とか働かせようと頑張りましたが、寒すぎて無理でした。サウナに行こうにもコロナの影響で行くのははばかられるし、第3の目的が達成できなくなるのでNG。私に残されていた最後の道は、仁川へ向かう地下鉄で寝落ちするのみです。

ソウル駅発清凉里着、13時間51分の一筆書き旅は、こうもあっけなく終わったのでした。

 

つづく